ーお大師様が願ったことー
- 神崎寺

- 1月29日
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初大師のお護摩が終わっての法話
今日は令和8年最初の弘法大師のご縁日”初大師”です。
皆様、よくお詣り下さいました。かつて、この山では一番のご縁日だったので2日間にわたりご縁日を行い、世話人さんが集めてきた御札で護摩壇の前が山になるほどの祈願を行っていたのだそうです。
現在では少々、お詣りが少なくなっていますが、かつて、この神崎寺では農家の主婦たる女性が中心に信仰を支えてくれて、忙しい中にも信仰を大切にして時間を都合することができたのですが、現代は女性もほとんどが勤めに出るようになり、時間が自由にならなくなった時代なので、やむを得ないところでしょう。そんな中で大寒の本当に寒い日にお詣り下さいました皆様の信仰と徳の高さに敬意をお伝えしたいです。
「よくお詣り下さいました!」

さて、お大師様こと弘法大師空海という宗教者ですが、数ある日本の歴史上の宗教者の中においては比類のないほどの実績や多くのものを現代に至るまで残してくれている存在といって間違いないことでしょう。
お大師様が伝えた密教の全てをお伝えすることは難しくて、浅学の私ではなおさら難しいところです。しかしながら、お大師様が願ったことは、こうではないか、というのをお伝えしたいです。
お大師様は正統密教の8番目の正統伝承者にあたり、密教を正式に日本に伝えています。
その密教の根本経典に大日経というものがあります、その大日経の中では物語のように密教を説いているのですが、主人公の金剛手菩薩さんが大日如来さんに尋ねます。「一切智とは何ですの?」。一切智とは宇宙の真理を示す智慧のことですが、ようするに、私たちはどんなふうに即身成仏を考えたらいいですか?ということです。
もっと言うと、私たちの生き方はどうしたら仏さまの意志(宇宙の意志)に沿うことができますか?ということです。

宇宙の真理そのものである大日如来さんは説明します。
まず、
「菩提心を因とし、」です。
菩提心というのは、悟りを求める心や自分の中に眠る仏の心のことですが、それでは実感が難しいですので、ここでは、今より善きものになろう!と上を目指す心や気持ちを持つことだと思ってください。
私たちはご飯食べて、寝て、時を過ごしていれば生き物として生きていることはできます。やりたいことだけやっていたほうが、楽で楽しくて、何となく満足しているような気持ちでいます。でも、これでは一体どこが獣と違うでしょうか?
食べて、寝て、死んでいく、それは人でなくてもできますね。
もちろん、人も獣の一部ではあるかもしれませんが、人を人にしているものは、道徳を持ち、皆が幸せに生きることができるよう考えられることなのです。
それが、「今より善きものになろう!」と思う心です。
実際のところ、日本において道徳の基本になっているものは全て仏教により形作られていますし、仏教の教えるところは、人が幸せになる方法でしかありません。
「菩提心を因とし、」は、今のまま生きる、ではなく「今よりも善きものになろう!」という心を持つことが”因”つまり出発です。と教えてくれています。

続いて、「大悲を根とし、」です。
大悲というのは、他の苦しみ、悲しみを我が事のように感じることです。人は自分勝手な生き物ですから、菩提心を持って「今より善きものになろう!」と思っても、他を思いやるとは限りません。だから、最初の種である”菩提心”が根を伸ばしていくには、自分だけでなく他のことすら己のことのように考えられる「優しい心」を持つこと、これが「大悲を根とし、」です。他の痛み、苦しみ、悲しみ、愚かさ、弱き心、などを否定あるいは拒否して、自分の得することしか考えることのできない存在は、やはり、獣のようなものですね。そう大悲は人としての優しさを持ちなさいと言っています。

そして、最後は、「方便を究竟とす」です。
方便と聞くと自動的に”嘘”を連想してしまうくらい「嘘も方便」なんて言葉が有名ですが。
なかなか良き方向に向かうことができない我々ですが、仏の教えを受け取れないので、受け取れるように嘘を利用して、結果としては、良き悟りに至ることができるようにすることを「嘘も方便」といいます。
法華経の「三車火宅」では、子供がたくさんいる長者さんの邸宅が火事になり、中にいた子供たちは遊びに夢中で火事に気づかず、火事を知らせても外に出ようとしなかった。そこで長者は子供たちが欲しがっていた「羊の車と鹿の車と牛車の三車が門の外にあるぞ」と嘘を言って、子供たちを導き出した。その後に長者さんは、もっともっと素晴らしい大白牛車を与えた。というストーリーです。
この物語で、実は長者は仏様で、火宅は苦しみの多い人の世、子供たちは衆生、羊車・鹿車・牛車の三車とは悟りに導くための方便で、導かれた人々は教えを得て悟りにいたることを示しています。
「嘘も方便」はさておき、「方便を究竟とす」は、
他に対して実際に働きかけをしなさい。それこそが最も大切なことなんですよ。と言っています。他を助けること「利他」が最強ですよ。と言っています。
他に対して実際に行う。言うのは簡単ですが、実際に行うことは難しいものです。どうでしょう?想像してみてください。特に、現代の世相を鑑みるに、世知辛いなんて言われて久しいです。他人のことに口を出したら、「おせっかい」とか、逆に悪く言われたりして攻撃されたり。下手をすればハラスメントなんて言われかねません。昔は近所の子供に声かけた、り、叱ったりなんてありましたが、今、同じことをしたら、不審者扱いされてしまいそうなご時世です。
でも、だから、できませんではなくて、今の時代に合った形や方法でできるように考えて欲しいです。

「菩提心を因とし、大悲を根とし、方便を究竟とす。」
この教えは「三句の法門」と言われ、密教の根本の教えです。
”自分をよりよくしようと考え”、”人のことを考える優しい心を育て”、そして”実践を外に向かって行う”。
すると、また、もう一段上の”よりよい自分になっていこう”となり、”より優しい人に対する心が育ち”、と自己成長して、みんなが幸せになれる世界、宇宙をお大師さんは願いました。
私たちはお大師様とは違う時代を生きていますが、人の心根は全く変わっていません。
お大師様に信仰を寄せることができる、今日のご縁日にお詣り下さっている皆さんにあっては、少しでもいいので、この三句の法門に込められた御大師様の願いに応えられるといいですね。






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